「がんを完治させるための5つのルール」はいかがでしたか?
がんという病気の特徴や、病院でのがん治療について、重要な点はある程度ご理解いただけたと思います。
さて、今日はメール講座【がん克服への道】の第1回目ですね。
メール講座では、私が今まで患者さんと接してきた経験から「多くの患者さんが興味を持っているもの」や「実はよく知らない」と思っているものなどに焦点を当てていきます。
というわけで、第1回目のテーマは、「遅れている日本のがん治療」です。
日本の医学は世界でトップクラス!と思っている人もいると思いますし、「遅れている」といわれても、にわかに信じがたい話ですよね。
たしかに「手術で患部を切り取る」などの局所的な治療技術においては、日本は世界のトップクラスです。
しかし、「全体のシステム」な「考え方」「革新性」どを考えると、先進国のなかでは遅れています。
【なんと・・・日本のがん治療には「データ」がない】
例えば、今まで日本は「全国にどのくらいのがん患者さんがいるのか」という数字すら正確に把握していませんでした。
もちろん、誰がどんな治療を受けてどうなったか、という(我々からするとかなり重要な)データもありません。
病院に行って治療をすればカルテが残りますよね?クリアファイルに入った治療経過の記録簿を誰もが一度は目にしたことがあると思います。
2016年の調査(JAHIS調べ)では、全国の病院で「電子カルテ」を導入している率はわずか30%です。その他の70%は何かというと紙のカルテのみ、ということです。
もちろん、がんセンターや大学病院など大規模な病院は電子カルテや医療管理システムを導入していますが、中規模のそれなりに大きな総合病院でも紙カルテをふつうに使っているところは多いのです。
今どき、社内資料のほとんどを紙で管理している、という会社があれば「昭和か!?」と突っ込まれると思いますが、そのくらい遅れているというイメージです。
私たち治療を受ける側からすると国内のデータとして「この薬を使った人の何パーセントがどのくらいの効果があったのか?」「この手術の結果、どのくらいの人が再発したのか」などの情報を知りたいところですが、システムがアナログなのでそんなことは一切望めない状況です。
全国のがん死亡者数など、国の運営上、必要最低限の重要情報は厚生労働省がアンケートを依頼して、個々の病院に回答してもらい、それを集計して公表するという形を取っていますが「肺がんのステージ2で胸腔鏡手術を受けた場合の再発率」などの詳細なデータ(個々の患者が必要なデータ)は集計すらできていません。
病院の大小問わず、現在の医療は「来た患者をルールに沿って治療して終わり」です。治療した結果がどうなろうが興味がないのです。興味がないから、やったことを紙に書いて保管しておけばよい、という話になります。
データを全国の病院で共通活用して問題改善や医療の進歩、患者の利益につなげるべきだ、などとは全く考えていないのです。
実際に私たちが治療を受けたあと「どういう経過になりましたか?」と自宅に電話がかかってくることは100%ないですし、アンケートが郵便で届くこともありませんよね。「やったらやりっぱなし」「その後ウチの病院へ来なくなった人のことなど、どうでもよい」ということです。
医療保険制度の困窮や医療現場の人材不足など、厳しい側面はありますし、何でも管理されたくないという患者の希望もありますが、がんは治療法が確立された病気ではないので、データの集約や分析、公開はかなり重要です。
日本ではようやく、2016年1月に「全国がん登録」という制度がスタートしたばかりです。これは日本でがんと診断されたすべての人のデータを、国で1つにまとめて集計・分析・管理する新しい仕組みです。
もう一度いいますが「2016年」です。ついこの間、やっとこのようなシステムができたということです。データの収集がようやくできる、という段階です。
いっぽう、アメリカなどのいくつかの先進国ではすでに「がん登録」という制度が長く運用されています。がんになると、自動的にがん登録がされるのです。
国が把握しているデータなので、一か所に治療データが集約されます。
これらのデータは蓄積・分析され、「このタイプのがんには、この治療法」といったスタンダードがつくられ、それが逆に全国の現場にフィード・パックされることになります。
つまり、最新の治療情報をどの病院も把握することができるというわけです。
そうした標準的な治療法が現場の医師に徹底されるだけでなく、患者さんもそれらの情報にアクセスできますから、患者さん自身が「今現在の最新標準治療」についての情報を手に入れることができるのです。
【データがない国が世界トップなわけがない】
このように古いシステムに甘んじてきたので、技術の革新も遅れています。
事実として日本の「治療ガイドライン」のほとんどは海外の臨床試験のデータを元にして作られています。
海外の臨床試験のデータ+国際会議で決められた内容が世界的にはスタンダードですが、その内容をそのまま反映するかどうかを、日本の各学会のトップの判断で決めている、という状況です。
欧米で決められたルールが横滑りしてきて、ほとんどそれをそのまま使わせてもらっている、ということですね。
欧米のルールをそのまま受け入れているならまだよいですが、「日本ではこれはできない」「日本ではこれが慣習だ」ということで既得権益が働くという悪癖もあります。
例えば、アメリカでは手術よりもダメージの少ない放射線治療が主流になっているがんもあります(子宮頸がんや肺がんなど)。
やってしまえば後戻りできない手術よりも、臓器を切除しない放射線治療を考えるのが先、という認識が持つ医師が増えています。
それを物語るようにアメリカでは、放射線の専門医が5000人いますが、日本では500人しかいません。
(アメリカの人口は3億人です。日本には専門医が1500人以上いてもおかしくないですね)
しかも、日本では外科医と放射線医は完全に分業されているケースが多く、主治医が外科であれば自動的に「手術」となり、患者は「放射線治療が可能か」と考える間も与えられません。
医師の「手術をしましょう」という言葉の背景が・・・
「(自分は外科医で放射線はできないし、やるつもりもないので)手術をしましょう」ということも多々あります。
このように、日本におけるがん治療は「システムは整備されておらず」「部分的な技術は高いが、考え方は古く、進歩も遅い」のです。
批判して嘆いているのではありません。それが事実だと知ったうえで、どうするべきか考えることが大切なのです。
今日のメール講座は「たまたま出会った病院と医師に全てを託して、身を預けてしまうのは正しくない選択である」ということを知ってもらうことが目的でした。
第三者のアドバイスを聞いたり、正しい情報を集めることは必須です。
近くに頼れる医療関係者や、最新の情報に詳しい人がいれば、まずはどんなことでも質問や確認をしてみましょう。
いらっしゃらない場合は、私の個別サポートを活用していただくのも1つの方法です。
・・・
さて、次回の【がん克服への道】は「第三者のアドバイス」がテーマです。
タイトルは「ムダなセカンドオピニオンと、有益なセカンドオピニオン」です。
それではまた明日。
---【患者さんからの報告紹介】---
肺がんステージ4 がんが見えなくなった瀬尾さん