今日のテーマは、いわゆる「末期がん」です。
実はこの「末期」という言葉の使い方は注意しなければなりません。
一般に「ステージ4=広い範囲に転移がある=末期がん」というイメージが強いかと思います。
しかし、ステージ4といってもその状態は様々です。
イメージ的には”全身にがんが転移して、もう助からず、余命も数か月しかない”という感じだと思いますが、実際には転移が起きていたとしても、転移先の状態はさほど悪くなく、すぐに命の危険が迫るケースでない場合も多いのです。
ですので「ステージ4」「進行がん」「末期がん」という言葉に惑わされずに、個人の状態をしっかり見つめることが大切です。
さて、今日の事例として挙げさせていただく「下野さん」のケースは、余命数か月の「本当の末期がん」です。
この事例を通じて「末期がん」であっても、いや、末期であるからこそ、【最善の選択をする】ことの重要さを知っていただきたいと思います。
大阪市に住む下野さんの奥さん(64歳)は、激しい腹部の痛みを訴えて、病院で検査を受けました。
検査の結果は、スキルス胃がん。
胃の半分以上ががんに侵されており、急いで胃を全摘出しなければということで、手術を受けました。
しかし、開腹してみると腸にも広く浸潤していることが分かりました。
医師からは「胃を摘出しても負担になるだけなので閉じます。ただ、食道と腸を繋いで少しは食事ができるようにしておきます」と言われ、胃には手をつけず、手術は終了しました。
「抗がん剤を使えば、余命半年」と医師に告げられ、下野さんの奥さんは退院しました。
「今後どうすればよいのか」と思案した下野さんは、私のサポートを申し込まれ、アドバイスを求めました。
私はまず「手術は絶対に出来ないのか。それとも可能性はあるのか」と尋ねました。
下野さんからは「医者には、誰がみても無理だといわれた。頑張ってなんとかできるレベルではないといわれた」との回答。
「そうであれば、抗がん剤を試してみるしかないが、まずは食事がある程度できるくらいまで回復を待たなければならない」と伝えました。
しかし・・・それから3日経っても、食事はおろか、水も満足に飲めない状態が続きました。
すぐに吐いてしまうか、水を飲んでもすぐに便意をもよおし、外に出てしまうとのことでした。
退院させたということは、食事も水も摂れると認識したうえでのことであるはずですが、3日経っても水も飲めないのは明らかにおかしい・・・と考えた私は、
「食道と腸の手術経過がおかしい。すぐに再診してもらいましょう」と伝えました。
ところが、下野さんは「もう少し自宅でがんばります」といって、なんとか水を飲ませよう、続けてきたフコイダンを飲ませよう、お粥を食べさせようとしていました。
奥さんも病院があまり好きではなく、自宅に居たいという気持ちがあり、病院には行きませんでした。
私は「もう自宅でどうこうできるレベルではない。早く病院にいって、水分や栄養を補給してもらえるよう対処しないといけない」と伝えましたが、下野さんは数日間、病院にはいかず、自宅で看護を続けました。
そして、退院から一週間が経過した日、奥様は自宅で倒れました。
下野さんは急いで救急車をよび、病院へ搬送しましたが、その日、奥様は帰らぬ人となりました。死因は脱水症状による腎不全でした。
退院時、余命半年といわれていましたが、わずか一週間で命を落とすという事態になったのです。
下野さんは、素直に私のいうとおりにしなかったことをとても後悔し、悔やんでも悔やみきれない様子でした。
確かに、もっと早く搬送していれば命を落とす事態にはならなかったでしょう。
しかし、根本的な原因は「病院の対応」にあります。
なぜ手術のあと、食事や水をきちんと摂れることを確認してから退院させなかったのか。
退院は「自宅で生活できるから大丈夫」と判断してから行うべきですが、そうしなかったのです。
下野さんは「退院したばかりで、そんな危険な状態になるとは思いもしなかった」とおっしゃっていました。
・・・この事例でお伝えしたいことは「末期と言われたら、なおさらその都度正しい選択をしなければならない」ということです。
がんが進行した状態になると、影響は全身に及ぶので、予測できないことが起こる可能性も高くなります。
よく「もう末期だから何もやることがない」といいますが、それは大きな間違いです。がん治療としてはできる手段が限られるというだけで、やるべきことや選択すべきことはたくさんあります。
末期ということは(望んだことではないですが)その人が人生を終えようとする、とても大切でかけがえのない時間を迎えたということです。
できるだけ元気に、長く過ごせるようにすることで、やり残したことができたり、大切な人に会ったり、家族へ伝えたい言葉を残すことができます。
だからこそ、慎重な判断や対処が必要ですし、必要なときに必要なことを行わなければなりません。
まだ可能性があるのに諦めたり、もう起き上がれない状態なのに高額な代替医療を選択したりと、正しい選択ができない人が多いと感じています。
私のサポートの根源は【事実を把握し、正しい知識を持ち、そのうえで最善の選択をしてもらう】ことにあります。ひたすら治療の手段を求め続けることが、がんとの闘いではないからです。
残された大切な時間をどう使うべきか。
最後まで人生を掴んでおくおくために何ができるか。
そんな大事なことを模索している患者さんやご家族にも、ぜひサポートを活用していただければと願っています。
さて、明日はメール講座「がん克服への道」の最終回です。
私からの最後のメールです。
---【患者さんからの報告紹介】---
膵臓がん余命宣告をされても、元気に過ごしていらっしゃる柳多さん