私が直接サポートしている患者さんには「必ず伝えていること」がいくつかあります。
迷わず、心が壊れることなく、納得して治療を受け、前向きにがんと闘うために【絶対に外してはいけないこと】がいくつかあるのです。
今日はその中の1つをシェアしたいと思います。
それは『判断する前に。事実をみつめ、正しい知識を持たなければならない』です。
多くの人は逆のことをします。
目の前の事実を見ず、曖昧な知識や思い込みを基盤にして判断を下すのです。そうして下した判断は必ず間違うか、後で後悔することになります。
事実に目を背ける、奇跡を祈る、希望的観測、根拠のない自信、間違った知識・・・
これらがんと闘ううえで何の役にも立たないどころか、答えのない出口をさまよい、精神状態を不安定にする原因にもなります。
「非情な現実」であっても、まずは事実を受け止めなければなりません。これは重く、難しいことですが、そこがスタート地点です。
がんという病気が相手なので「厳しい現実や事実」になることも多いですが、それでもきちんと正面から受け止めなければならないのです。
受け止めた後に「では、どうするか」を決めていくというプロセスを踏むことが大切です。
「事実と正しい知識」を整理していくと、おのずと納得できる判断や正しい判断に辿りつくのです。
概念的な話だけでは伝わりにくいと思いますので、事例を挙げますね。
■乳がん再発の恐怖で鬱(うつ)病になった伊藤さん
乳がんの手術を受けたものの、再発が怖くて眠れない。
少し腰に痛みを感じただけでも「骨転移か」と不安に襲われ、ついにはうつ病と診断された・・・伊藤さんという女性がいました。
乳がんの女性だけではなく、他のがん、男性にも精神状態が乱れる人は非常に多いです。
こういう場合のうつは病気というよりも、考え方(思考)が混乱することによるパニックです。
なので抗うつ薬などでどうにかなる問題ではないです。「考え方が悪い」ので、それを修正していかなければなりません。
私は伊藤さんに「まずは頭の中を整理しましょう」と伝えました。
具体的にどういうことか説明しますね。
まず、一度乳がんになった人について、再発のリスクというのは常にあります。(乳がんだけでなく他のがんもそうです)
非浸潤乳がん(ステージ0)などの早期がんでも再発の可能性はゼロではありません。5年経過しても10年経過しても、再発の可能性はあるのです。
なぜ再発するのか。再発する原因は3つあります。
1.初期治療で明らかな取り残しがあった。
2.初期治療で根治したが、乳房内に目に見えないがんの芽があった。
3.初期治療で根治したが、乳がんが生まれる素地があるため、また新たに発生した。
この3つのパターンのうちのいずれかです。
早期がんの場合「1」はまずないです。乳がんを例にとると「断面陰性」であれば手術は問題なく成功しています。
「2」について
がんの芽というのは、目視できないがん細胞です。5mm未満のがんは発見できませんが、5mmでも数十億のがん細胞の集まりです。
手術によって切除できた、と思っても、それは目に見えるがんだけが対象ですし、がんの芽があるかどうかは分かりません。
そのため、切除手術が成功してもホルモン療法や抗がん剤などで、がんの芽をできるだけ叩く、という手段がとられます。
相手が見えないので、効果があったかどうかは確認できませんが、再発リスクを減らすための手段です。
「3」について
ホルモン療法を5年やったが再発した、などのケースは存在します。
ホルモン療法も、抗がん剤も、分子標的薬も「投与期間中、がん細胞を殺すか増殖を防ぐため」のものであり、がんを「治す薬」ではありません。
確かにがん細胞を阻害することができる薬ですが、完全に殺し切れるかというとそこまでの効果があるわけではないです。
「治す薬」ではないからこそ、それで安心することはできないのです。
がんに勝つためには、ガイドブック(5つのルールなど)でも伝えているとおり、自然治癒力、抵抗力、恒常性維持力を向上し、高いレベルでキープすることが大切です。
根本的に再発を防げるかどうかは、ここが最も重要ですし、軸だといえます。
ここまでが「正しい知識」です。
何かを考えたり判断するとき、「事実」「正しい知識」に基づかないと、適切な答えはでてきません。
再発するメカニズム=再発の正体、ともいえますね。
これが分かっていないと、「とにかく再発が怖い」となってしまいます。
こうやって再発が起きる、再発の可能性はゼロにはならない、と知ったら、あとは「自分に何ができるか」「何をすべきか」整理することになります。
自分がコントロールできることに集中することが大切です。
具体的には、
・ホルモン療法など病院の治療の効果を把握し、やるかどうか決める。
・自分の自然治癒力を高めるために、日々の生活習慣に配慮する。
・定期的に検査を受ける。異常がみつかれば治療法を考える。
がんに対してやることはこれだけです。
やるべきことを整理したら、それを実施する。決めたことをやるだけ、というステップに移ることができます。
そうすると他の時間はがんのことを考えずに済み、心ががんに支配されにくくなります。
伊藤さんは、自分がコントロールできないことや、考えても答えが出ないことに意識が向いているので、いつまでも問題や疑問、不安が解消されず混乱し、うつになってます。
再発するかどうかはコントロールできません。
しかし「再発がどうやって起きるのかを知り」「自分にできる再発予防をする」ことはできます。
つまり、知識不足+思考のプロセスが悪いことで伊藤さんは今の状態になっているということです。
ちなみに、乳がんの再発が起きるなら、手術した乳房や胸部のリンパ節、腋窩リンパ節、反対側の乳房など、胸部周辺が先です。
いきなり前兆なく骨転移が起きる、ということは非常に稀です。
こういうことも必要な知識の1つです。分かっていれば「腰が痛い=骨転移か?」と心配しなくて済みます。
3か月に一度、病院へ定期的に検査にいくと決めたら、そのスケジュールだけ決めておき、あとは日々の生活、自分の人生に集中することが大事です。
そういう意味では、人生の目標や目的も大切です。やるべきことがあれば、そこに集中することができるからです。
なので問題の根っこを探っていくと人生観や死生観にも及びます。
そういった深いお話をすることもありますが、まずは「正しい知識」を持ち、「思考のしかた」を改善するのがよい、ということです。
・・・明日からは、私のサポートの「実例」をご紹介しますね。
子宮の全摘出とリンパ節の切除を提案された、大谷さんという女性のお話です。
子宮頸がんの患者さんですが、エピソードの内容は、全ての患者さんに通じるものなのであなたにも知っていただきたいと思います。
---【患者さんからの報告紹介】---
前立腺がんの手術後、経過が順調な川亦さん